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株主総会への出席について、事前登録制の採用が適法とされた事例

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【静岡地裁沼津支部 令和4年6月27日決定】

 A社は、令和4年6月29日開催予定の定時株主総会に際し、新型コロナの感染状況に鑑み出席予定株主に対する事前登録制(入場できる株主の人数の制限に当たり、株主総会に出席を希望する者に事前登録を依頼し、事前登録をした株主を優先的に入場させ、事前登録者があらかじめ用意した座席数を超える場合には抽選により当選した者のみの入場を認める等の措置)を採用したことに対し、一部の株主から会場における座席数の制限及び事前登録制は株主参与権の行使の妨害であるとして株主総会の開催禁止等の処分を求めていたことに対する裁判所の判断です。

 裁判所は、経済産業省及び法務省の令和2年4月2日付「株主総会運営に関するQ&A」により、新型コロナ感染防止のため入場制限及び事前登録制の採用を認めており、このような措置を採用することはやむを得ないもので、合理性を欠くとは認められないと判断しました。

 また、希望する株主全員を株主総会に出席させなければならない権利であるとは認められないなどとして、株主の総会参与権の侵害には当たらないとしました。

 令和2年度以降、多くの会社において何らかのコロナ感染予防対策を講じており、特に株主数の多い会社においては入場制限や事前登録制を採用している会社もあるようです。今回の決定は、これらの措置に対して、一応のお墨付きを与えたものといえそうです。

 もっとも、総会参与権について、希望する株主全員を出席させなければならない権利ではない、としたことについては議論がありそうです。すなわち、大阪地裁昭和49年3月28日判決は、定員1100名の会場において、ほぼ同数の株主は入場できたものの、約300名の株主が入場できなかった事案において、「少くともこれらの株主が質問、動議の提出その他により議案の審議に参加し、議決権を行使することができなかったことは明らかである。被告会社としては、本件総会出席のために参集したすべての株主に対し、何らかの方法で議決権行使の機会を与えるべきであり、かりに本件総会当日、総会場の物理的状況等によりそれが不可能であったとすれば、総会の期日を変更し、延期しまたは続行することにより、株主のために右機会を確保しなければならず、かつ、それは可能であって、右のような措置をとらないでした本件決議は、その方法において株主に議決権を認めた法令の趣旨に違反するものといわざるを得ない。」と判示しており、当該判決は、最高裁昭和58年6月7日判決により是認されています。

 従って、一般論として株主の入場制限を本決定のように言ってしまうのはさすがに言い過ぎではないかと思います。入場制限等は、やはりコロナ感染予防のためのような合理的な理由がある場合に限って、やむを得ず是認されるものと思われます。